もう何年も前に、
私は真っ赤なマニキュアを買った。
マスカラや口紅とも無関係な年頃で、
もちろんそのマニキュアも、
恐ろしいほど似合わなかった。
それでも私は、
せっせと真っ赤なマニキュアを塗った。
なぜだかわからないけれど、
体中で逃げ場所を探して、
のたうちまわっている痛み達が、
真っ赤な血になって
爪の先から体の外へ出て行くような、
そんな気がして、
私は毎日毎日、赤い爪を創り続けた。
マニキュアの爪を空に透かせて、
海で泳がせるのが好きだった。
|
|
ところがしばらくすると
たっぷりのニスに固められた爪は、
息苦しそうにSOSを出し始めて、
周りの大人達は
こぞって赤い爪をとがめ始めた。
私はマニキュアを
机の奥に隠して眠らせて、
いつの間にか
赤い爪のことを忘れてしまった。
でもそれから何年もたたないうちに
今度は足の爪に
赤いマニキュアを塗るようになっていた。
バレリーナだった私の足は、
トゥーシューズのせいで
めちゃくちゃに壊れてしまっていて、
爪もあちらこちらはがれていたから、
これもまた恐ろしくマニキュアの
似合わない爪だったけれど、
初めて主役を務めた舞台のときも、
お守りがわりのように
赤い爪をトゥーシューズの下に忍ばせて、
私はジゼルを踊った。
|
|
バレエの舞台に立たなくなった今も、
私はマニキュアを塗る。
どうしようもなく悲しいときや
音を立てて体が崩れ落ちそうなとき、
私はゆっくり足の爪に
赤いマニキュアをのせる。
体中の痛み達が
爪の先から真っ赤な血になって、
滲んで流れ出て、
消えていくような、
そんな気がするから、
私は何度でも立ち上がれる。
トゥーシューズを脱いで、
足の指からマメが消えて、
爪がきれいに生え揃っても、
私はこの爪の先から
血を流し続けて、
これからもずっと
生きていくような気がする。
|
|