初めて雪に触れた遠い日のことを
よく憶えている。
沖縄で生まれた私に
雪を見せようと、
ママは飛行機に乗せて
雪山へ向かった。
目の前に広がるのは
白い小さな破片たちの嵐で、
それは手のひらで溶けて消えていく、
夢のお話のようだった。
私は、つないでいたママの手を
無理に振りほどいて、
真っ白なうさぎのコートを着たまま
雪の上をころげまわった。
手袋を脱ぎ捨てて、
わしずかみにした雪は
サラサラとこぼれて、
きしむように固まると
私の指を凍えさせた。
今、思い出してみると
私の指先は
あれからずっと
冷たく冷えたままだった
触れ合うとつめたいから
冬になると
誰もが私の添い寝を嫌がった。
自分の体温よりも、
はるかに冷え切った
自分の指に怯えながら、
私は自分の隅で
まるくなって眠った。
そんな指が愛されたのは、
熱のうなされた人間たちへと
寝不足のほてった瞼への
手当てだけだったから、
私は凍えた指を、
さらに氷漬けにして
つめたくつめたく冷やし、
いつも出番を待っていた。
気が付くと、
調子に乗った私の指は、
温めようとしても
体温を取り戻せなくなっていて、
いつの間にか
手当てを求める声も
聞こえなくなってしまっていた。
風が吹いて、
クリスマスが近づいてくると
私の指は
また冷えていく。
髪をかき上げて
自分の体に指が触れると
私は初めて雪に触れた日を想い出す。
私の目に映った白い嵐や、
ママの手のぬくもりや、
そしてそれを振りほどいた感触。
舞い狂う雪のにおいと、
遠くから、
静かに、
静かに聞こえてくるのは
やさしく柔らかな雪のワルツだけだった。

bounce DECEMBER 1996










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